〈な形容詞〉〈い形容詞〉の否定を教える時に参考にしたこと
下線部の所を参考にしました。
反義語は大別して三種あり、その1つは、「男」と「女」、「生」と「死」、「表」と「裏」のように、一方でなければ必ず他方という排反の関係が成り立っています。つまり、「表」でありかつ「裏」である、あるいは「表」でも「裏」でもないということは考えられず、また、「表」であることに関して、程度の違いを考えることもできません。それに対して、「長い」と「短い」、「高い」と「低い」のような場合は、一方を否定しても必ずしも他方になるとは言えません。たとえば、背が高くないと言っても、それは直ちに背が低いことを意味しているわけではなく、単に普通の背の高さであるかもしれません。また、どれくらい背が「高い」のか、程度の違いを考えることも可能です。反義関係のもう1つの類型は、「売る」と「買う」、「貸す」と「借りる」のような場合に見られます。この場合、同じ事態が別の視点から描写されており、このような例を特に逆意の関係と呼ぶことがあります。
佐久間淳一ほか(2004) 『言語学入門』 研究社 102p
「背が高くない」と「背が低い」は同じじゃない
言葉からイメージする内容はその通りですが、書いてあると安心します。
程度の違いが目に見えるものはないか?
程度の違いが目に見えるものとして次のものを選びました。
スマートフォン、ケータイ、電話が、「便利です」「あまり便利じゃありません」「便利じゃありません」
学習者の国で日本の都市が、「有名です」「あまり有名じゃありません」「有名じゃありません」(これは目に見えません。少しでも雰囲気を出すために日本地図を貼りました。)
時計が、「とても高いです」「高いです」「あまり高くないです」「高くないです」「安いです」
車が、「新しいです」「あまり新しくないです」「新しくないです」「古いです」
使った画像
スマートフォン、ケータイ、電話
「便利です」スマートフォン(iPhone12)(https://www.apple.com/jp/shop/buy-iphone/iphone-12/6.1インチディスプレイ-128gb-パープル)より
「あまり便利じゃありません」ケータイ(AQUOS ケータイ SH-02L)(https://onlineshop.smt.docomo.ne.jp/products/detail.html?mobile-code=0049n)より
「便利じゃありません」電話機(https://www.amazon.co.jp/パナソニック-留守番電話機-親機のみ-迷惑電話対策機能搭載-VE-GD25TA-W/dp/B01N14Y3IX)より
時計
「とても高いです」時計(ブルガリ ビーゼロワン)288,000円(https://www.bettyroad.co.jp/shop/g/g162624/)より
「高いです」時計(セイコー ドルチェ&エクセリーヌ)115,500円(https://www.bettyroad.co.jp/shop/g/gseiko046/)より
「あまり高くないです」時計(ダニエル ウェリントン ペティット メッシュ ピンク)23,100円(https://www.powerwatch.jp/2020/10/05/02-1750-1005/)より
「高くないです」時計(スカーゲン)12,900円(https://item.rakuten.co.jp/nopple/skw2864/?scid=af_pc_etc&sc2id=af_117_1_10000782)より
「安いです」時計(シチズン キューアンドキュー)1,610円(https://store.shopping.yahoo.co.jp/yleciel/4966006065589.html#)より
車
「新しいです」テスラ モデル3(2017年販売開始)(https://car.motor-fan.jp/article/photo/10016267/3535536202009091443100000001/)より
「あまり新しくないです」日産シーマ(1988年販売開始)(https://clicccar.com/2021/04/27/1078810/kazue_ito_cima_restore_09/)より
「新しくないです」日産プリンススカイライン(1963年販売開始)(https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/22/Prince_Skyline_S50_1500_Deluxe_001.jpg)より
「古いです」T型フォード(1908年販売開始)(https://web.motormagazine.co.jp/_ct/17032236)より
導入が終わった時のホワイトボード
導入が終わった時のホワイトボードの写真です。
時計の右から二つ目の9,980円の写真は、このページに載せた画像と違います。授業で使った写真の引用元のURLを見つけられなかったので、このページに載せた画像に変えました。値段も変わっています。
時計の右端の写真は値段が1,920円ですが、このページでは1,610円です。これも引用元のURLを見つけられなかったので、値段が変わっています。
「〜は 〈い形容詞〉〈な形容詞〉 です」の導入
導入に入る前に
形容詞の否定を教える前に、形容詞文の肯定を教えています。
みんなの日本語の教え方の手引きでは、1)形容詞文の肯定(富士山は有名です) 2)形容詞文の疑問(富士山は有名ですか) 3)形容詞文の否定(富士山は有名じゃありません)の順です。
い形容詞とな形容詞の新出語彙を教えた後、「スマホは便利ですか。」と言ったら、学生は理解していました。(「みんなの日本語」を7課まで学習した学生)
それで、「富士山は有名です」「富士山はきれいです」をやったあとは、形容詞文の疑問を使っています。
時計の写真の下には値段が貼ってあって、最初は見えないようにしてあります。
導入
先生「(富士山の写真を見せながら)この山の名前は何ですか。」
学生「富士山です。」
先生「富士山は?」
学生「有名です。」
学生「きれいです。」
時計(モンブラン トラディション デイト)108,000円(https://www.jackroad.co.jp/shop/g/gmb118/)より
先生「(この写真を値段を隠して見せて)Sさん、この時計は高いですか、安いですか。」
学生「安いです。/高いです。/わかりません。」
先生「(値段を見せて)Sさん、読みます。」
学生「108,000円です。」
先生「この時計は高いですか、安いですか。」
学生「高いです。」
学生コーラス「この時計は高いです。」
次の写真も同じようにして
学生コーラス「この時計は安いです。」
時計(カシオ MQ-24-9B)1,240円(https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0001XVUFA/dennougadget-22/ref=nosim/)より
「〈な形容詞〉じゃありません、〈い形容詞〉くないです、あまり/とても」の導入
導入に入る前に
時計の写真の下には値段が貼ってあって、最初は見えないようにしてあります。
車の写真の下には販売開始年が貼ってあって、最初は見えないようにしてあります。
時計の時は、学生におもちゃの1万円札を2枚渡して、「皆さんのお金です。時計を買います。」と言ってあります。
持っているお金によって高いと感じる金額が変わると思うので、感じ方をできるだけ揃えるために、所持金を2万円とし、それをおもちゃのお金で渡しました。
おもちゃの1万円札はサイズだけ本物と同じ(76×160mm)にしました。
〈な形容詞〉の否定の導入
先生「(スマホの写真を見せて)これは何ですか。」
学生「スマホ(スマートフォン)です。」
先生「スマホは便利ですか。」
学生「はい、便利です。」
先生「(電話機の写真を見せて)これは何ですか。」
学生「電話です。」
先生「電話は便利ですか。」
学生「いいえ、便利じゃありません。」
先生「(日本地図を貼って)Sさん、(Sさんの国の名前)で東京は有名ですか。」
学生「はい、有名です。」
先生「神戸は有名ですか。」(大阪で日本語を勉強している学生なので、神戸にしました。)
学生「いいえ、有名じゃありません。」
〈い形容詞〉の否定の導入
先生「(おもちゃの1万円札を2枚渡して)これは皆さんのお金です。時計を買います。」
先生「いくらですか。」
学生「2万円です。」
先生「(1,920円の時計の写真を値段を隠して見せて)この時計は高いですか。安いですか。」
学生「安いです。/高いです。/わかりません。」
先生「(値段を見せて)Sさん、読みます。」
学生「1,920円です。」
先生「この時計は高いですか、安いですか。」
学生「安いです。」
後は次の順番で同じようにしました。
115,500円の時計の写真を使って「高いです」、
12,900円の時計の写真を使って「高くないです」を導入しました。
「高くないです」のときは、「この時計は高いですか」と質問し、学生が「いいえ、高くないです」と答えるようにしました。
[たかいです→たかくないです]を板書しました。
車についても販売開始年を隠して同じようにしました。
1908年販売開始の車の写真を使って「古いです」、
2017年販売開始の車の写真を使って「新しいです」、
1963年販売開始の車の写真を使って「新しくないです」を導入しました。
「新しくないです」のときは、「この車は新しいですか」と質問し、学生が「いいえ、新しくないです」と答えるようにしました。
[あたらしいです→あたらしくないです]を板書しました。
[いいです→よくないです]を板書しました。
「とても」の導入
先生「(288,000円の時計の写真を値段を隠して見せて)この時計は高いですか。安いですか。」
学生「高いです。」
先生「(値段を見せて)Sさん、読みます。」
学生「288,000円です。」
先生「この時計は高いですか、安いですか。」
学生「とても高いです。」
「あまり」の導入
先生「(23,100円の時計の写真を値段を隠して見せて)この時計は高いですか。」
学生「高いです。」
先生「(値段を見せて)Sさん、読みます。」
学生「23,100円です。」
先生「この時計は高いですか。」
学生「いいえ、あまり高くないです。」
この時に、115,500円は「高いです」、12,900円は「高くないです」だったことを確認して、23,100円ぐらいだと「あまり高くないです」と言えることを導きました。
次に、1988年販売開始の車の写真を使って「あまり新しくないです」、
ケータイの写真を使って「あまり便利じゃありません」を導入しました。
東京で「有名です」、神戸で「有名じゃありません」だったので、大阪で「あまり有名じゃありません」を導入しようとしました。(学生は大阪で日本語を勉強しています)
「Sさんの国で大阪は有名ですか」と聞くと、「有名です」と返事が返ってきました。
それで、あわてて「名古屋」で聞いてみました。なんとか「あまり有名じゃありません」を導入できました。
練習の最後にした質問
先生「学校は楽しいですか。」
先生「皆さんは毎日学校で日本語を勉強します。日本語の勉強はおもしろいですか。」(「勉強しています」は未習のため、「勉強します」で質問)
「みんなの日本語」では、「勉強します」は4課で出てきます。
「します」は6課で出てきます。
「勉強」という名詞については、「みんなの日本語 翻訳・文法解説」14課のGrammar Notesに、Ⅲグループの動詞には「行動を表す名詞+します」があるという説明があります。
「みんなの日本語」8課 練習Cの1ー1)で、「日本語の勉強はどうですか。」と「勉強」を使っています。
「あまり好きじゃない」は婉曲な否定(それを説明する図)
「あまり好きじゃない」は「少し好き」と同じだと説明できると思っていました。
「あまり好きじゃない」を使う時って、私は「好きじゃない」と思っている。でも、周りの人は「好きだ」と言っている、または思っている、そういう時に自分の気持ちを婉曲に表現するのに使っていると思います。
それで、次のような「あまり〜ない」の説明図を考えました。
あまり
好き 好きじゃない 嫌い
「あまり〜ない」には、婉曲に表現するという機能があるので、「少し〜」と同じだと言ってはいけないと考えました。