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「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」(四つ仮名)をどう説明したか

類義表現
大澤寺(だいたくじ)(大阪市)
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イタリア人学生の疑問

授業でディクテーションの練習をしているところを見る機会がありました。

そのときに、授業をされている先生が「地図」と言ったら、

イタリア人学生が「ちづ」と書いたのです。

その学生は、正解が「ちず」であることを知って、不思議そうな顔をしていました。

どう説明したか

イタリア人学生の不思議そうな顔に授業者の先生は気がつかなかったので、次のプリントを作って渡しました。

(プリントの漢字には振り仮名をつけました)

プリントを読んで、イタリア人学生はわかりましたと言っていました。

A.
 じ /zi/ = ぢ /zi/
 ず /zu/ = づ /zu/

B.(1st)
 「じ」と「ず」を使います。

C.(2nd)
 1. つづきます(続きます)continue
 2. ちぢみます(縮みます)shrink, contract
 3. 手+作ります=て+つくります→てづくり
   手:hand, arm
   作ります(verb):make, produce
   作り(noun)
 4. 鼻+血=はな+ち→はなぢ
   鼻:nose
   血:blood

D.(3rd)
 We have exceptions about “じ” and “ぢ”, “ず” and “づ”.

プリントを作るときに参考にした資料

プリントを作るときに参考にした資料は、A については、「現代日本語学入門 改訂版」p26(萩野綱男 編著 明治書院)です。

「現代日本語学入門 改訂版」p26(萩野綱男 編著 明治書院)

B、C、D について、参考にした資料は、「新しい国語表記ハンドブック(第8版)三省堂」のpp222-228に載せられている「現代仮名遣い(昭和61年7月1日内閣告示第1号)」です。

    本 文
凡 例
 1 原則に基づくきまりを第1に示し、表記の慣習による特例を第2に示した。
 2 例は、おおむね平仮名書きとし、適宜、括弧内に漢字を示した。常用漢字表に掲げられてい
   ない漢字及び音訓には、それぞれ*印及び△印をつけた。

第1(原則に基づくきまり)
 語を書き表すのに、現代語の音韻に従って、次の仮名を用いる。
 ただし、下線を施した仮名は、第2に示す場合にだけ用いるものである。

1 直音
   あ い う え お
   か き く け こ  が ぎ ぐ げ ご
   さ し す せ そ  ざ じ ず ぜ ぞ
   た ち つ て と  だ   で ど
   な に ぬ ね の
   は ひ ふ へ ほ  ば び ぶ べ ぼ
              ぱ ぴ ぷ ぺ ぽ
   ま み む め も
   や   ゆ   よ
   ら り る れ ろ
   わ       
 例 あさひ(朝日) きく(菊) さくら(桜) ついやす(費) にわ(庭)
   ふで(筆) もみじ(紅葉) ゆずる(譲) れきし(歴史) わかば(若葉)
   えきか(液化) せいがくか(声楽家) さんぽ(散歩)

2 拗音
   きゃ きゅ きょ  ぎゃ ぎゅ ぎょ
   しゃ しゅ しょ  じゃ じゅ じょ
   ちゃ ちゅ ちょ  ぢゃ ぢゅ ぢょ
   にゃ にゅ にょ
   ひゃ ひゅ ひょ  びゃ びゅ びょ
             ぴゃ ぴゅ ぴょ
   みゃ みゅ みょ
   りゃ りゅ りょ
 例 しゃかい(社会) しゅくじ(祝辞) かいじょ(解除) りゃくが(略画)
  〔注意〕拗音に用いる「や、ゆ、よ」は、なるべく小書きにする。

3 撥音 略
4 促音 略
5 長音 略

第2(表記の慣習による特例)
 特定の語については、表記の慣習を尊重して、次のように書く。

1 助詞の「を」は、「を」と書く。 略
2 助詞の「は」は、「は」と書く。 略
3 助詞の「へ」は、「へ」と書く。 略
4 動詞の「いう(言)」は、「いう」と書く。 略

5 次のような語は、「ぢ」「づ」を用いて書く。
⑴ 同音の連呼によって生じた「ぢ」「づ」
 例 ちぢみ(縮) ちぢむ ちぢれる ちぢこまる つづみ(鼓) つづら つづく(続)
   つづめる(△約) つづる(*綴)
  〔注意〕「いちじく」「いちじるしい」は、この例にあたらない。
⑵ 二語の連合によって生じた「ぢ」「づ」
 例 はなぢ(鼻血) そえぢ(添乳) もらいぢち そこぢから(底力) ひぢりめん
   いれぢえ(入知恵) ちゃのみぢゃわん まぢか(間近) こぢんまり 
   ちかぢか(近々) ちりぢり
   みかづき(三日月) たけづつ(竹筒) たづな(手綱) ともづな にいづま(新妻)
   けづめ ひづめ ひげづら おこづかい(小遣) あいそづかし わしづかみ
   こころづくし(心尽) てづくり(手作) こづつみ(小包) ことづて
   はこづめ(箱詰) はたらきづめ みちづれ(道連) かたづく こづく(小突)
   どくづく もとづく うらづける ゆきづまる ねばりづよい つねづね(常々)
   つくづく つれづれ
  なお、次のような語については、現代語の意識では一般に二語に分解しにくいもの等として、
 それぞれ「じ」「ず」を用いて書くことを本則とし、「せかいぢゅう」「いなづま」のように
 「ぢ」「づ」を用いて書くこともできるものとする。
 例 せかいじゅう(世界中)
   いなずま(稲妻) かたず(固唾) きずな(*絆) さかずき(杯) ときわず
   ほおずき みみずく
   うなずく おとずれる(訪) かしずく つまずく ぬかずく ひざまずく
   あせみずく くんずほぐれつ さしずめ でずっぱり なかんずく
   うでずく くろずくめ ひとりずつ
   ゆうずう(融通)
  〔注意〕次のような語の中の「じ」「ず」は、漢字の音読みでもともと濁っているもので
   あって、上記⑴、⑵のいずれにもあたらず、「じ」「ず」を用いて書く。
 例 じめん(地面) ぬのじ(布地)
   ずが(図画) りゃくず(略図)

「新しい国語表記ハンドブック(第8版)三省堂」のpp222-228「現代仮名遣い(昭和61年7月1日内閣告示第1号)」

日本語学習者の耳は信頼できる

日本語は母音の数も子音の数も少ないので、日本語学習者の母語では使い分けてられている音が日本語では使い分けられていない可能性があります。

ですから、日本語学習者が日本語母語話者の発音を聞いて違う音だと思うときは、母語話者が表記は
同じだけれど違う音で発音している可能性があります。

表記は同じだが違う音で発音している場合の例が、「ん」です。

また、日本語学習者が日本語母語話者の発音を聞いて同じ音だと思うときは、母語話者が表記は違うけれど同じ音で発音している可能性があります。

表記は違うが同じ音で発音している場合の例が、この四つ仮名です。

「日本語は母音の数も子音の数も少ない」については、「現代日本語学入門 改訂版」(萩野綱男 編著 明治書院)に次の説明があります。

学習者にとって日本語の「話しことば」が比較的やさしいといわれる理由の一つに、日本語の音素数の少なさがある。母音は /i/ /e/ /a/ /o/ /u/ の5音素のみ、子音は /p/ /b/ /t/ /d/ /k/ /g/ /h/ /s/ /z/ /c/ /r/ /m/ /n/ の13音素、半母音は /j/ /w/ の2音素、そして特殊音素 /N/ /Q/ /R/ の3音素である。これは世界の言語の中でも少ないほうに属する。

「現代日本語学入門 改訂版」p169 (萩野綱男 編著 明治書院)

四つ仮名が混同されはじめたのはいつか?

室町末期になると混乱が見られるようになり、17世紀末には現代と同じようになった(スーパー大辞林3.0)

大辞林は、もともと破裂音だった「ぢ」「づ」が破擦音化して、もともと摩擦音だった「じ」「ず」と混乱するようになったと書いています。

古くは、「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」は、それぞれ異なる音(「じ」「ず」は摩擦音の[ʒi] [zu]、「ぢ」「づ」は破裂音の[di] [du])で発音されたが、室町末期になると「ぢ」「づ」が破擦音化して[dʒi] [dzu]となり、以後「じ」「ず」との混乱がみられるようになり、17世紀末には現代と同じようになった。

スーパー大辞林3.0

現代語の「じ」「ぢ」、「ず」「づ」の音声表記は、「現代日本語学入門 改訂版」では、「じ」と「ぢ」は [dʒi]で 、「ず」と「づ」は [dzɯ] です。

「現代日本語学入門 改訂版」p23より(萩野綱男 編著 明治書院)

江戸初期のうちに一般化して区別がつかなくなった(日本語学入門)

日本語学入門 山口堯二著(2005年 株式会社昭和堂)は、「ジとヂ、ズとヅの混同も、江戸初期のうちに一般化して区別がつかなくなったようである」と書いています。

この資料では、ロドリゲスが書いた日本大文典(1604〜08)が引用されています。ロドリゲスは京都の人々の「ジ、ヂ、ズ、ヅ」の発音に欠点があると言っています。

四つの仮名の混同

 江戸時代に入って、新たに混同されはじめた音節に、ジとヂ、ズとヅがあり、合わせて四つ仮名と呼ばれる。室町末期のキリシタン資料のローマ字表記では、多く
   ジ ji ヂ gi
   ズ zu ヅ zzu
と書いて区別されているが、次の記述によれば、その頃の京都でもすでに混同されることがあったようである。

 都の言葉遣いが最もすぐれてゐて言葉も発音法もそれを真似るべきであるけれど、都の人々も、ある種の音節を発音するのに少し欠点を持ってゐることは免れない。
 ……例へば、Fonji(本寺)の代わりにFongi(ほんぢ)、Jinen(自然)の代わりにGinen(ぢねん)といひ、又 Giban(地盤)の代わりにJiban(じばん)、Giquini(直に)の代わりにJiquini(じきに)といふ。……
 又 Zu(ズ)の音節の代わりにDzu(ヅ)を発音し、又 反対にDzu(ヅ)の代わりにZu(ズ)といふ。例へば、Midzu(水)の代わりにMizu(みず)、……(ロドリゲス日本大文典・二・卑語・607ー8貢)

このような四つ仮名、ジとヂ、ズとヅの混同も、江戸初期のうちに一般化して区別がつかなくなったようである。

日本語学入門 山口堯二著(2005年 株式会社昭和堂)

この資料の5行目にある「その頃の京都」の「その頃」は、文脈から室町末期と読み取れる。

しかし、大辞林によるとロドリゲスが日本に滞在したのは1577年頃から1613年までで、室町時代は1336年から1573年までなので、ロドリゲスは室町末期には日本にいなかったことになる。

この「日本語学入門」は、他の章で、室町時代、江戸時代前期、江戸時代後期・・・という時代区分を使っているので、安土桃山時代と戦国時代を無視して江戸時代の前を室町時代にしていると思われる。

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